JAPAN lacrosse 君の人生に、限界はない
海図のない時代のスタート地点に立つ新入生へ
理事長メッセージ
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
そしてご家族の皆様、本当におめでとうございます。日本ラクロスの全てのコミュニティを代表して、心よりお祝いを申しあげます。
グローバルパンデミックに見舞われた令和新時代、私たちは、キャンパスライフ、社会、経済に大きなダメージを受けました。この逆境の中での新しい船出に、新入生の皆さんも不安を感じていると思います。「いままでこうだった」、「先輩や友人も同じ考え」、といった常識がワークしないのではないかと心の中で感じ始めている方もいると思います。学校の授業も在宅リモートになるなど、生活様式が一変し、その流れはさらに加速していくでしょう。そういう意味で、皆さんは、全く新しい海図のない時代のスタート地点に立っているのだと思います。
ゼロイチの積み重ねが日本ラクロスを進化させた
ラクロスというスポーツも、日本では全く何もないところから始まりました。
ちょうど35年前の1986年、ラクロスに関心を持った10数名の関東の大学1年生と、ノリオエンドーさんという日系3世の米国企業の駐日代表、彼の母校のジョンズホプキンス大学との偶然の出会いが全ての出発点でした。新しいことをしたいと考えていた18歳の新入生、50代の企業経営者、アメリカラクロスコミュニティの異なるバックグランドをもった人達の融合が、日本のラクロス普及という「イノベーション」を創出しました。
1988年、ボランティア(主体的に発生するソーシャル活動の担い手)による日本学生ラクロス連盟(学連)が立ち上がり、学生が自ら企画して日本で初めての関東リーグ戦が女子2大学、男子5大学で開催されました。また、全米強豪のジョンズホプキンス大の選手とHCがラクロス創成期の日本を訪れ、競技技術の基礎指導をしてくれました。彼らは現役大学生の自宅にホームステイし、日常生活や観光を通じて交流が生まれました。次第に遊び心がモチベーションに変わり、九州から北海道の各地区の学連が司令塔となり、全国にリーグ戦が広がっていきました。現在、日本のラクロスは、延べ10万人以上の選手、女子170チーム、男子140チームのメガベンチャースポーツに成長しています。野球、ソフトボール、サッカー、バスケットボール等の異なるスポーツ経験者や初心者が、大学のラクロスフィールドで、自らが成長するチャンスを掴んできました。今もそのチャンスは同じです。
常に最前線。常に進化。それがラクロスのDNA
ラクロスは「地上最速のスポーツ」と言われ、その起源はネイティブアメリカンにさかのぼります。
17世紀以前から、北米大陸のアメリカ先住民・開拓者たちが、部族間の戦い、遊び、宗教的儀式のために行っていたものがラクロスの原型です。「Lacrosse」という名前は試合で使うスティックが修道士の持つ杖に似ていたので、フランス語での「杖」=「La Crosse」が由来になりました。女子競技も、1890年スコットランドでチームが創設され、現在、英国人女性ビジネスパーソンが国際連盟(World Lacrosse(以下WL))のトップを担うラクロスは、歴史的にも男女均等のダイバーシティ文化を大切にしてきました。
また、ラクロスは、クロス、ヘルメット、グローブ、アイガード等の用具を使うスポーツです。軽量化などの技術進歩に伴い競技ルールも安全でスピードを重視するものに変化してきました。昨年、WLはアジアやアフリカでの競技普及を見越して、現在の10人制に加えて、よりコンパクトな6人制の新ルール導入を決定しました。また、2028年のロサンゼルス五輪での正式種目化も目指しています。皆さんが日本代表選手となって世界選手権大会や五輪に参加することも夢ではありません。競技やルールが変更されれば、審判・選手・コーチ・運営者も将来を先読みし、進化していかなくてはなりません。ゲームの勝敗は、変化への対応力と、変化を自ら創りだすクリエイティビティで決まるのです。自発的に、自らが競技ルールやスポーツ文化の「ゲームチェンジ」をリードすることが求められるのです。
常に進化し続けることがラクロスのDNAなのです。
「私たちは開拓者だ。」「枠を超えていく。」「Lacrosse as a Life.」
今、日本ラクロス協会は、「私たちは開拓者だ。」「枠を超えていく。」「Lacrosse as a Life.」というビジョンを掲げています。
2020年、私たち日本ラクロスコミュニティは、悩みながらこれらの原点に何度も立ち返ってきました。「なぜラクロスをプレーするのか」を真剣に考えてきました。ラクロスにかぎらず全てのスポーツが仮に無くなっても、人々の生命が奪われることはありません。しかし、ラクロスが社会に必要ない、ということを意味してはいないと思います。日常生活の中で、QOL(Quality Of Life)=生活の質の向上は非常に大切なもので、確実にラクロスは我々のQOLを向上させてきました。ラクロスに情熱を傾けることを通じて、私たちはたくさんのものを得て成長し、社会に還元してきたと思います。挑戦する機会の重要性、多様性に対する理解と学び、目に見えないものを信じる力、他者と共感することの素晴らしさ、自分自身と深く向き合う時間、目標に向かって努力することの尊さ。これらの全ては間違いなく、現役の関係者、そして2021年新入生のキャンパスライフにとって意義あることと思うのです。Lacrosse as a Lifeは、スポーツの枠を超えるパンデミック新時代のラクロスの再定義なのです。
2020年は、今までの常識の枠を超えた学生中心の様々な新しい試みが行われました。オンラインでの新歓企画は全国レベルで展開され、2000人もの新入生が入部しました。感染症対策を徹底した特別大会(リーグ戦)を全国で開催にこぎつけたのも学連です。無観客試合を逆手にとって、各大学がYouTube, Instagramなどを通じて、テレビ局もうなる公式戦のライブ配信を独自企画しスマホ試合観戦が日常になりました。安全重視であえてリーグ戦に参加しない独自判断をするチームもありました。逆境下だからこそ、ゼロベースで自らが考え、自らが判断する開拓者精神が、全国で創造されたことは素晴らしいことです。
2021年、わたしたちが創りあげるもの
パンデミック下で世界が大きく変化していく中で、キャンパスライフをどのように過ごしていくかは、皆さんの大切な決断だと思います。日本でも、この特設サイトに登場いただいたラクロス出身者を始め、ラクロスを通じて、主体的に動き考えることを体得し、社会人になってからも活躍するリーダーが出始めています。「Lacrosse Makes Friends.」 ― これは、先にご紹介したノリオエンドーさんが提唱した日本ラクロス創世記のスローガンです。学生時代に築いた国際的なラクロスの友人は一生もので、それぞれが各国でリーダーになれば、世界中のあらゆる紛争は回避・解決できる。そんな願いが込められています。
「なぜラクロスを選択し、プレーするのか」 ― パンデミック下の今だからこそ、ぜひ皆さんに考えてもらいたいと思います。哲学的な批判精神を持ちつつ、客観的に世の中を見て、耳を傾け、そこから何らかの違和感を見つける。みんながあたりまえに思うことに対して、本当にそれで正しいのか、他に違う考え方はないだろうかというオルタナティブ(代替的な仮説や考え方)を提案して、実行してみる。哲学やアートは、このプロセスで着実に進歩し、教養としての知性を広げ、専門的なさまざまな学問領域を創ってきました。ラクロスは、ある意味で、オルタナティブ的なスポーツだと思います。そしてこのコミュニティには、ポジティブに社会の課題を見つけ、オルタナティブ的な解決提案を考えるアート思考を持つ人たちが集まる伝統があります。
文武両道の「考えるスポーツ・ラクロス」は、いつでも、皆さんが仲間になってくれることを歓迎しています。ぜひ、各大学のラクロス部の門をたたいてみてください。そして、皆さんが明るくワクワクするようなカレッジライフを過ごしていけることを心より祈念しております。
(2021年3月29日)